眠れない…そんなとき睡眠薬はどう選ぶ?種類・作用機序・使い分けをわかりやすく解説
睡眠薬の種類・作用機序・使い分けをわかりやすく解説
「布団に入ってもなかなか眠れない」
「夜中に何度も目が覚める」
「朝早く起きてしまう」
「しっかり寝たはずなのに、疲れが取れない」
このような睡眠の悩みは、とても身近なものです。
一方で、不眠症は「眠れないから睡眠薬を飲めばよい」という単純なものではありません。
実は、不眠のタイプや原因によって、適している治療や睡眠薬は異なります。
近年では、従来の「脳を鎮静させるタイプ」の睡眠薬だけでなく、
- 覚醒を抑える薬
- 体内時計を整える薬
- 脳の興奮を抑える薬
など、作用機序の異なる薬が使用されています。
今回は、睡眠薬の種類や作用機序、どのように使い分けるのかについて、できるだけ分かりやすく解説します。
まず「不眠症」にはいくつかのタイプがあります
一言で「眠れない」といっても、症状は人によって異なります。
① 寝つきが悪い「入眠困難」
布団に入っても、なかなか眠れないタイプです。
「寝ようとすると逆に目が冴える」
「布団に入って30分以上眠れない」
といった症状がみられます。
ストレスや不安、生活リズムの乱れなどが関係していることもあります。
② 夜中に何度も起きる「中途覚醒」
一度は眠れるものの、夜中に何度も目が覚めるタイプです。
「2時間おきに目が覚める」
「トイレに起きたあと眠れない」
「何度も時計を確認してしまう」
といった症状があります。
加齢とともに増える傾向がありますが、睡眠時無呼吸症候群や夜間頻尿などが隠れていることもあります。
③ 朝早く目が覚める「早朝覚醒」
予定している起床時間よりもかなり早く目が覚めて、その後眠れないタイプです。
年齢による睡眠リズムの変化だけでなく、気分の落ち込みやうつ状態などでもみられることがあります。
④ 寝た気がしない「熟眠障害」
睡眠時間は確保できていても、
「ぐっすり寝た感じがしない」
「朝起きても疲れている」
と感じるタイプです。
この場合、睡眠時間だけでなく「睡眠の質」を考える必要があります。
睡眠薬はすべて同じではありません
患者さんから、
「睡眠薬って全部同じじゃないんですか?」
と質問されることがあります。
実際には、睡眠薬にはいくつかの種類があり、眠りを促す仕組みが異なります。
現在よく使用される睡眠薬は、大きく、
① オレキシン受容体拮抗薬
② メラトニン受容体作動薬
③ 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬
④ ベンゾジアゼピン系睡眠薬
に分けて考えると分かりやすくなります。
4種類の睡眠薬 早見表
まずは全体像をつかみたい方向けの一覧です。詳しい説明はこの下で順番に解説します。
| タイプ | 代表薬 | 作用機序 | 向いている症状 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|---|
| ① オレキシン受容体拮抗薬 | デエビゴ・ベルソムラ・クービビック | 覚醒を保つ働き(オレキシン)を弱める | 寝つきが悪い/中途覚醒/両方 | 翌朝の眠気・ふらつき・悪夢 |
| ② メラトニン受容体作動薬 | ロゼレム | 体内時計を整えて自然な眠りを促す | 生活リズムの乱れ・寝つきが悪い | 鎮静作用は弱く、依存を形成しにくい |
| ③ 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬 | マイスリー・アモバン・ルネスタ | GABAの働きを強め、興奮した脳を鎮める | 寝つきが悪い(入眠困難) | 翌朝の眠気・ふらつき・転倒・依存 |
| ④ ベンゾジアゼピン系睡眠薬 | 種類が多く個別の薬剤名は多岐にわたる | GABAの働きを強める+抗不安・筋弛緩作用も | 不眠に加えて不安が強い場合など | 長期使用でふらつき・転倒・依存・離脱症状 |
① オレキシン受容体拮抗薬
「眠らせる」のではなく「起きている力を弱める」薬
代表的な薬として、
- デエビゴ®(レンボレキサント)
- ベルソムラ®(スボレキサント)
- クービビック®(ダリドレキサント)
などがあります。
オレキシンとは?
私たちの脳には「オレキシン」という物質があります。
オレキシンには、
「起きていなさい」
という覚醒を維持する働きがあります。
日中に活動しているときには、このオレキシンの働きが重要です。
オレキシン受容体拮抗薬は、その働きを弱めることで、
「覚醒状態」から「睡眠状態」へ移行しやすくします。
イメージとしては、
「強制的に眠らせる」
というより、
「脳の覚醒スイッチを弱める」
薬です。
どんな方に使う?
- 寝つきが悪い
- 夜中に何度も目が覚める
- 寝つきも中途覚醒も両方ある
といった場合に使用されることがあります。
近年、不眠症治療でよく使用されるタイプの薬です。
注意したい副作用
- 翌朝の眠気
- ふらつき
- 悪夢
- 金縛りのような症状
などがみられることがあります。
また、他の薬との飲み合わせに注意が必要な場合もあります。
② メラトニン受容体作動薬
「そろそろ眠る時間ですよ」と体内時計に伝える薬
代表的な薬が、
ロゼレム®(ラメルテオン)
です。
メラトニンとは?
私たちの体には「体内時計」があります。
夜になると、脳からメラトニンというホルモンが分泌され、
「夜になりました」
「そろそろ眠る時間です」
という情報を体に伝えます。
メラトニン受容体作動薬は、この仕組みを利用して睡眠と覚醒のリズムを整えます。
どんな方に使う?
- 寝る時間がずれている
- 昼夜逆転気味
- 生活リズムが不規則
- 寝つきが悪い
といった場合に使用されます。
「飲めばすぐ眠れる薬」ではありません
メラトニン受容体作動薬は、脳を強く鎮静する薬ではありません。
そのため、
「飲んだら10分で眠くなる」
といった薬ではなく、
体内時計を整えながら自然な睡眠を促していく薬です。
依存を形成しにくいことも特徴のひとつです。
③ 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬
興奮している脳に「ブレーキ」をかける薬
代表的な薬には、
- マイスリー®(ゾルピデム)
- アモバン®(ゾピクロン)
- ルネスタ®(エスゾピクロン)
などがあります。
作用機序は?
私たちの脳には「GABA」という神経伝達物質があります。
GABAは、脳の神経活動を抑える働きをしています。
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、GABA-A受容体に作用し、GABAの働きを強めます。
つまり、
「興奮している脳にブレーキをかける」
ことで眠りやすくする薬です。
どんな方に使う?
比較的速く作用する薬もあり、
「布団に入ってもなかなか眠れない」
という入眠困難で使用されることがあります。
注意したいこと
- 翌朝の眠気
- ふらつき
- 転倒
- 一時的な記憶障害
- 服用後の異常行動
- 依存
などに注意が必要です。
服用後は仕事や家事を続けたり、外出したりせず、就寝することが大切です。
④ ベンゾジアゼピン系睡眠薬
効果は高いものの、長期使用には注意が必要です
ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、以前から広く使用されてきました。
作用機序は非ベンゾジアゼピン系と似ており、GABA-A受容体を介して脳の興奮を抑えます。
睡眠以外の作用もあります
ベンゾジアゼピン系には、
- 不安を和らげる
- 筋肉を緩める
- けいれんを抑える
といった作用もあります。
そのため、不眠とともに不安が強い場合などに使用されることもあります。
長期間使う場合には注意
ベンゾジアゼピン系では、
- 翌朝の眠気
- ふらつき
- 転倒
- 骨折
- 記憶への影響
- 耐性
- 依存
- 離脱症状
などが問題になることがあります。
特に高齢の方では、ふらつきや転倒に注意が必要です。
また、長期間使用している薬を自己判断で突然中止すると、
「前より眠れなくなった」
「不安が強くなった」
「動悸や震えが出た」
といった症状が出ることがあります。
長期服用中の薬を減らしたい場合は、医師と相談しながら少しずつ調整します。
睡眠薬はどう使い分けるの?
睡眠薬は、
「どれが一番強いか」
で選ぶものではありません。
重要なのは、
「どのように眠れないのか」
「なぜ眠れないのか」
です。
寝つきが悪い場合
「布団に入っても1時間以上眠れない」
という入眠困難では、
- オレキシン受容体拮抗薬
- メラトニン受容体作動薬
- 比較的短時間作用型の睡眠薬
などを、年齢や症状に応じて検討します。
特に生活リズムが大きくずれている場合には、薬だけでなく体内時計を整えることも重要です。
夜中に何度も目が覚める場合
中途覚醒では、
「眠ること」だけではなく、
「睡眠を維持すること」
が重要です。
オレキシン受容体拮抗薬などが選択肢になります。
ただし、
夜間頻尿
睡眠時無呼吸症候群
痛み
アルコール
などが原因になっていないかも確認する必要があります。
朝早く目が覚める場合
早朝覚醒では、
単純に作用時間の長い睡眠薬を追加すればよいとは限りません。
- 睡眠リズムの変化
- うつ状態
- 加齢
- アルコール
- 生活習慣
などの確認が重要です。
「一番強い睡眠薬をください」は正しい?
診察では、
「もっと強い睡眠薬はありませんか?」
と相談されることがあります。
しかし、「強い睡眠薬=良い睡眠薬」ではありません。
強く効きすぎると、
- 朝まで眠気が残る
- 頭がぼーっとする
- 仕事に集中できない
- ふらつく
- 高齢者では転倒する
といった問題が起こります。
睡眠薬は、
「必要な睡眠を確保しながら、翌日に影響を残さない」
ことが大切です。
睡眠薬を飲んでも眠れない場合、別の病気が隠れていることも
「睡眠薬を飲んでいるのに眠れない」
「薬が少しずつ増えている」
という場合には、薬を増やす前に原因を確認することが大切です。
睡眠時無呼吸症候群
次のような症状はありませんか?
- 大きないびきをかく
- 寝ている間に呼吸が止まっていると言われる
- 日中に強い眠気がある
- 朝起きると頭痛がある
- 十分寝ても疲れが取れない
このような場合、睡眠時無呼吸症候群が隠れている可能性があります。
睡眠薬だけではなく、睡眠中の呼吸状態を調べることが重要です。
むずむず脚症候群
夜になると、
「脚がむずむずする」
「脚を動かしたくてじっとしていられない」
といった症状がある場合は、むずむず脚症候群の可能性があります。
通常の不眠症とは治療方法が異なります。
うつ病や不安
気分の落ち込みや不安、ストレスなどによって、最初に不眠が現れることもあります。
「眠れない」だけでなく、
- 何をしても楽しくない
- 食欲がない
- 朝が特につらい
- 強い不安が続いている
という場合には、背景にある心身の状態を確認することが重要です。
夜間頻尿
夜中に何度もトイレに行くことで眠れない場合、
睡眠薬を増やすだけでは根本的な改善につながらないことがあります。
前立腺疾患、過活動膀胱、心不全、糖尿病などが関係することもあります。
痛み・咳・かゆみ
腰痛や神経痛、咳、皮膚のかゆみなどによって眠れない場合もあります。
このようなケースでは、
「眠らせること」
よりも、
「眠れない原因そのものを治療すること」
が重要です。
睡眠薬の前に見直したい8つのポイント
睡眠薬と同じくらい大切なのが、毎日の生活習慣です。
次のような点を意識してみましょう。
① 毎朝できるだけ同じ時間に起きる
② 朝起きたら日光を浴びる
③ 昼寝は長時間しすぎない
④ 夕方以降のコーヒー・緑茶・エナジードリンクを控える
⑤ 寝酒をしない
⑥ 寝る直前までスマートフォンを見続けない
⑦ 眠くなってから布団に入る
⑧ 「眠らなければ」と頑張りすぎない
実は、
「眠れないから早く布団に入る」
「眠れないけれど何時間もベッドにいる」
という習慣が、かえって不眠を悪化させることがあります。
睡眠薬とお酒は一緒に飲んでもいい?
基本的にはおすすめできません。
アルコールには一時的に眠気を起こす作用がありますが、
数時間後には眠りを浅くし、
- 中途覚醒
- 早朝覚醒
- いびき
- 睡眠時無呼吸
を悪化させることがあります。
さらに、睡眠薬とアルコールを併用すると、
- 強い眠気
- ふらつき
- 転倒
- 記憶障害
- 異常行動
などの危険性が高まる可能性があります。
睡眠薬と飲酒の併用は避けましょう。
睡眠薬を飲んだ翌朝の運転にも注意
睡眠薬によっては、翌朝まで作用が残ることがあります。
本人は「眠くない」と感じていても、
・集中力
・判断力
・反応速度
が低下している場合があります。
車の運転や危険を伴う作業については、それぞれの薬の注意事項を必ず守る必要があります。
睡眠薬は一度飲み始めたら、やめられない?
必ずしもそうではありません。
睡眠状態が安定し、生活リズムや不眠の原因が改善すれば、
医師と相談しながら薬を減らしたり、中止したりできる場合があります。
ただし、長期間使用している睡眠薬の中には、急に中止すると反動で不眠が悪化するものがあります。
そのため、
「最近眠れているから今日から全部やめよう」
と自己判断するのではなく、医師と相談しながら調整することが重要です。
こんな方は一度ご相談ください
次のような症状がある場合は、医療機関への相談をおすすめします。
- 寝つくまでに毎日かなり時間がかかる
- 夜中に何度も目が覚める
- 朝早く目が覚めて眠れない
- 不眠が続き、仕事や家事に影響している
- 日中の眠気が強い
- いびきや無呼吸を指摘されている
- 今の睡眠薬が効かない
- 睡眠薬が少しずつ増えている
- 何年も睡眠薬を飲み続けていて心配
- 睡眠薬を減らしたいが、どうしたらよいか分からない
不眠は、「眠れない」という症状だけを治療するのではなく、
「なぜ眠れないのか」
を確認することが大切です。
まとめ
睡眠薬には、
- 覚醒を弱める薬
- 体内時計を整える薬
- 脳の興奮を抑える薬
など、さまざまな種類があります。
それぞれ作用機序が異なるため、
「寝つきが悪いのか」
「夜中に目が覚めるのか」
「生活リズムが乱れているのか」
「他の病気が隠れていないか」
によって、治療方法も変わります。
大切なのは、「一番強い睡眠薬を使うこと」ではなく、「自分の不眠のタイプや原因に合った治療を行うこと」です。
「寝つきが悪い」
「夜中に何度も起きる」
「朝早く目が覚める」
「今の睡眠薬が自分に合っているか知りたい」
「長年飲んでいる睡眠薬を見直したい」
という方は、一度ご相談ください。
睡眠の状態だけでなく、生活習慣、持病、現在使用している薬、いびきや無呼吸の有無なども確認しながら、一人ひとりに合った治療方法を考えていきます。
※本記事は一般的な医学情報の提供を目的としています。睡眠薬の開始・変更・減量・中止は自己判断で行わず、医師または薬剤師にご相談ください。
